大規模賃金引上枠とは、通常枠以外の事業再構築補助金ひとつで、多くの従業員を雇用しながら、継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させるものです。大規模賃金引上枠は、中小企業者等・中堅企業等のいずれも申請できる(ただし従業員数101人以上の企業)の枠で、通常枠に比べて、補助金額が多い反面、目標が達成できなかった場合、返金を求められる点が特徴です。

大規模賃金引上枠は従業員数101人以上の企業限定の事業再構築補助金

大規模賃金引上枠は、中小企業者等中堅企業等のいずれであっても申請できる事業再構築であり、多くの従業員を雇用しながら、継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させるものです。ただし、従業員数が101人以上の企業に限って申請できます。

大規模賃金引上枠は、通常枠の事業再構築に加えて、後述の賃金引上要件および従業員増員要件の両者を満たす必要があります。また、通常枠とは異なり、賃金引上要件、従業員増員要件のいずれかを満たさない場合は、補助金の返還を求められます。

他方で、これらの厳しい要件をクリアした場合は、通常枠の分に加えて、さらに最大で2,000万円の補助金が追加で給付されます。

大規模賃金引上枠の概要

大規模賃金引上枠の概要
定義 該当なし(事業再構築指針(令和3年3月29日改訂版)には緊急事態宣言特別枠の記載はありません)
概要 多くの従業員を雇用しながら、継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させる中小企業等(中小企業者等・中堅企業等の両者)の事業再構築を支援。(すべての公募回の合計で、150社限定)
補助対象事業者 中小企業者等中堅企業等
要件
  1. 事業再構築要件
  2. 売上高減少要件
  3. 認定経営革新等支援機関要件
  4. 付加価値額要件
  5. 賃金引上要件
  6. 従業員増員要件
補助金額 【従業員数101人以上】8,000 万円超~1億円
補助率 中小企業者等:2/3(6,000万円超は1/2)
中堅企業等:1/2(4,000万円超は1/3)
補助事業実施期間 交付決定日~12か月以内(ただし、採択発表日から14か月後の日まで)
補助対象経費 建物費機械装置・システム構築費(リース料を含む)技術導入費専門家経費運搬費クラウドサービス利用費外注費知的財産権等関連経費広告宣伝・販売促進費研修費
補助金返還の制度
  1. 申請時点で、申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明することが必要です。交付後に表明していないことが発覚した場合は、補助金額の返還を求めます。
  2. 予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、事業計画期間終了時点において、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げることが出来なかった場合、通常枠の従業員規模毎の補助上限額との差額分について補助金を返還する必要があります。
  3. 予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、事業計画期間終了時点において、従業員数を年率平均1.5%以上増加させることが出来なかった場合、通常枠の従業員規模毎の補助上限額との差額分について補助金を返還する必要があります。
  4. 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に違反した場合は、返還を求められる可能性もあります。

※この他、不採択、交付取消、財産処分の場合の返還、収益納付等が発生する可能性もあります。

備考1 大規模賃金引上枠は、中小企業者等・中堅企業等のいずれであっても申請できます。
備考2 大規模賃金引上枠で不採択の場合は、通常枠で再審査されます。再審査にあたっては事業者での手続きは不要です。

大規模賃金引上枠の要件

【要件1】事業再構築要件

事業再構築要件
事業再構築補助金の通常枠(新分野展開事業転換業種転換、業態転換(製造業サービス業)又は事業再編)のいずれかを行うものであること。

※ 当然ながら、上記の通常枠の事業再構築に求められる要件を別途満たす必要があります。

【要件2】売上高減少要件

売上高減少要件
2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少しており、2020年10月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して5%以上減少していること等。
(売上高に代えて付加価値額を用いることも可能)

【要件3】認定経営革新等支援機関要件

認定経営革新等支援機関要件
事業計画を認定経営革新等支援機関と策定すること。
補助金額が3,000万円を超える案件は認定経営革新等支援機関及び金融機関(金融機関が認定経営革新等支援機関であれば当該金融機関のみ)と策定していること。

【要件4】付加価値額要件

付加価値額要件
補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること。

【要件5】賃金引上要件

賃金引上要件
補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げること。

【要件6】従業員増員要件

付加価値額要件
補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5 年の事業計画期間終了までの間、従業員数を年率平均1.5%以上(初年度は 1.0%以上)増員させること。

大規模賃金引上枠の特徴

【特徴1】従業員数101人以上の中小企業者等・中堅企業等向けの枠

大規模賃金引上枠は、中小企業者等・中堅企業等のいずれであっても申請できる枠です。

ただし、従業員数101人以上の規模の企業のみが申請できます。このため、ある程度の事業規模の企業しか申請できません。

【特徴2】賃上げ・新規雇用が必須の枠

付加価値額要件とは別に賃上げ・新規雇用が求められる

大規模賃金引上枠は、他の事業再構築の枠とは異なり、賃上げと新規雇用が必須となります。

他の事業再構築の枠では、いずれも付加価値額要件として、付加価値の一部として間接的に人件費の増加が求められますが、必須ではありません。

これに対し、大規模賃金引上枠では、明確な要件として、賃上げ(賃金引上要件)と新規雇用(従業員増員要件)が求められます。

このため、将来、賃上げ・新規雇用により、人件費が経営を圧迫することがないよう、慎重な事業計画の立案が求められる事業再構築です。

新規雇用は「正社員」が必須

なお、ここでいう「従業員」とは、いわゆる「常勤従業員」のことです。常勤従業員とは、中小企業基本法上の「常時使用する従業員」のことです。

【意味・定義】常勤従業員・常時使用する従業員とは

常勤従業員は、中小企業基本法上の「常時使用する従業員」をいい、労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」と解されます。これには、日々雇い入れられる者、2か月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、試みの使用期間中の者は含まれません。

常勤従業員は、いわゆる「正社員」のことです。つまり、大規模賃金引上枠では、正社員の新規雇用が求められます。

6人以上の「正社員」の新規雇用が必須

また、新規雇用の数は、初年度(≒補助事業実施期間)は1.0%、次年度以降、3~5年の事業計画期間終了までの間は各年で1.5%の常勤従業員数となります。この際、小数点以下は繰り上げとなります。

例えば、事業計画期間を最短の3年とした場合は、常勤従業員数の5.5%(初年度1.0+事業計画期間年率平均1.5%×3年)を新規雇用する必要があります。

大規模賃金引上枠は、101人以上の従業員がいることが必須ですので、101×5.5=5.555、つまり最低でも6人(小数点以下繰り上げ)の正社員の新規雇用が必須となります。

【特徴3】不採択でも通常枠で再審査される

大規模賃金引上枠は、事業再構築要件として、通常枠の事業再構築補助金の要件を満たしている必要があります。

この点について、大規模賃金引上枠での事業再構築補助金の申請では、仮に大規模賃金引上枠として不採択となった場合であっても、通常枠で再審査されます。ただ、当然ながら、その補助金額・補助率は、通常枠の事業再構築補助金の範囲内となります。

なお、再審査の際には、改めて事業者が手続きをする必要はありません。

【特徴4】大規模賃金引上枠は目標未達で補助金の返還が求められる

補助金返還の条件の数は最も多い3種類

大規模賃金引上枠の補助金額は、8,000 万円超~1億円であり、通常枠(100万円~8,000万円)に加えて、最大で2,000万円の追加分があります。しかしながら、大規模賃金引上枠は、通常枠とは異なり、補助金返還の制度があります。

しかも、その数は、補助金返還精度がある他の枠(中小企業卒業枠中堅企業グローバルV字回復枠)よりも多い3種類です。

大規模賃金引上枠で補助金返還が求められる3つのパターン
  • 賃金引上げ計画を従業員に表明していないことが発覚した場合
  • 事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げなかった場合
  • 従業員数(≒正社員)を年率平均1.5%(初年度1.0%)以上増加させなかった場合

申請時点で、申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明することが必要です。交付後に表明していないことが発覚した場合は、補助金額の返還を求めます。

大規模賃金引上枠については、予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、事業計画期間終了時点において、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げることが出来なかった場合、通常枠の従業員規模毎の補助上限額との差額分について補助金を返還する必要があります。

大規模賃金引上枠については、予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、事業計画期間終了時点において、従業員数を年率平均1.5%以上増加させることが出来なかった場合、通常枠の従業員規模毎の補助上限額との差額分について補助金を返還する必要があります。

このように、目標(=賃上げ・新規雇用)が達成できなかった場合は、補助金の返還を求められます。

従って、大規模賃金引上枠は、そもそもこれ自体を狙って申請するのではなく、通常枠の事業再構築において、賃上げ・新規雇用により人件費を増やし、付加価値額要件を達成する事業計画が元々ある場合に、一種の「おまけ」=追加分として狙うべき枠と言えます。

ポイント
  • 大規模賃金引上枠は、賃上げ・新規雇用による生産性向上を支援するための事業再構築。
  • 大規模賃金引上枠は、通常枠に加えて一定の要件を満たすことで、最大で2,000万円の追加の補助金が給付される。
  • 大規模賃金引上枠は、中小企業者・中堅企業等のいずれであっても申請できる枠であるが、従業員数101人以上の企業に限る。
  • 大規模賃金引上枠では、目標(賃上げ・新規雇用)が達成できない場合は、補助金の返還を求められる。
  • 大規模賃金引上枠は、これを目的に申請するのではなく、賃上げ・新規雇用を予定している通常枠の「おまけ」として申請するべき。